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おとぎ話

SEPTEMBER MORN セプテンバー・モーン

「いらっしゃい・・・まだ降っている??」
「うん、もうすぐ上がりそうだけどね」
「ありがとう、来てくれて」
「お礼を言うのはオレの方だよ、ありがとう。間にあったかな??」
「う~ん、ちょっと待って・・・大丈夫みたい、あなたの誕生日は終わってない」
カウンター席が数席あるだけの小さなバーのママは時計に視線を移して時刻を確かめ、偽りなく嬉しそうに微笑む。

酔っ払いが歩く通りの喧騒を知らぬげにひっそりと佇む店内はゆっくりと時を刻む。
ママの選んだBGMが静かに流れる中で 客はそれぞれの時間を誰にも邪魔される事なく好きな酒を飲んで過ごす。
勿論、ママ目当ての客もいるがさり気なくあしらわれて高嶺の花と諦め、どんな男と秘密の時間を過ごすのかと想像する事になる。

「ちょっと待って、灯りを落とすから」
カウンターを出て店の看板を取り込み、シャッターを下ろす。
頭や肩の雨に濡れた部分もそのままにしてオレの傍に立つ。
微かに漂う香りに早くもオレの心は早鐘を打ち、それを隠そうとしてバックバーに目をやる。
「濡れちゃった・・・」
バックバーの奥にある鏡の中で視線を合わせ、悪戯っぽく微笑みながら口にする。
「気が付かなくて、ごめん」
オレはハンカチを手にして雨に濡れた部分を軽く拭き取る。
「何処かで飲んで来たの??・・・顔が赤いよ」
「何を言わせたい??」
「ウフフッ、何か言いたい事があるの??聞いてあげるよ・・・なんなりとおっしゃいな」
「ウ~ン・・・今は止めとく。切っ掛けがあれば後でね」
「ふ~ン・・・分かった。良いよ、後でも・・・正直な人が好きよ」

カウンターに入ったママはシェーカーを手に取り、ホワイトラム・ライムジュース・グレナディンシロップ・卵白を入れてシェイクする。出来上がったカクテルをシャンパングラス2個に注ぎ分けてオレの前に置く。

「フルーツが好きなあなたの誕生日ケーキはこれで良い??」
「フルーツたっぷりのタルトか、好きだよ。うん??・・・これは??」
「そうだよ、手作り・・・誕生日をお祝いする精一杯の気持ち、口に合えばいいけど・・・」
キャンドルを立てたママはカウンターの外に出てオレのそばに立つ。
「私は右、それとも左??どっちに座ればいいの??」
「触れたくなるような好い女とオレの悪戯を待つ女は左側」
「あなたが右利きだから??」
「ふふふっ・・・」
照明を暗くしてオレの左側に座り、キャンドルに火を点ける。

「お誕生日、おめでとう・・・」
「ありがとう・・・」
「吹き消して・・・」
「なんか照れるな」
フゥ~・・・静寂と共に室内が暗くなる。
「きれい・・・」
きれいだ、と言いかけたオレの唇に人さし指を合わせて言葉を遮り、言葉は必要ないと言わんばかりに静かに目を閉じて顔を傾ける。
閉じた瞼の裏側に映っているであろうオレ自身の姿を意識しながら、優しく背中を抱いて首に手を回し、唇を合わせる。
静かなキスは次第に濃厚なものとなり、息をするのも苦しくなるほど互いを求めあって離れていく。
二人の唇は離れるのを拒否して唾液がツゥ~っと糸を引く。

目の周りを朱に染めて、
「改めて、お誕生日おめでとう」
「2人だけの誕生日をありがとう」
シャンパングラスを軽く掲げ乾杯をする。
カクテルは秋の早朝、昇り始めた朝日のような色だ。グレナディンシロップの深みのある赤が卵白を加える事で朝焼けのような色になり味にもコクがでる。
「ラム酒の原料を知ってる??」
「サトウキビだろ」
「じゃ、グレナディンシロップは??」
「本当はザクロ、でもカシスなどを使ったものもある」
「このカクテルはどう、美味しい??」
「うん、誕生日を祝ってくれるに相応しいよ」
「フフフッ・・・プレゼントが欲しい??」
「なんか怖いね・・・」
「このカクテルはね、セプテンバー・モーンって言うんだけど・・・<九月の朝>って言う意味なんだよ・・・どう、気にいった??」
「モーニングではなくモーン??」
「らしいよ・・・どうする??・・・九月の朝」
「・・・今晩、泊めてくれる???」
「いいよ、誕生日プレゼント代わりに泊めてあげる。朝になったら私の身体をグラス代わりにセプテンバー・モーンをもう一杯飲ませてあげる」

愛し合った後は降っている雨も止み、きれいな朝日を見ることが出来るだろう。


                                              <<おしまい>>
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