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年下の男の子 

プロローグ

「136円のお返しでございます。ありがとうございました」
「ありがとう」
コンビニで買い物を済ませた女性は時刻を確認して大急ぎで店を出る。

「お先に失礼します」
「お疲れさま。森君、明日は休みだっけ??」
「はい、明日は休ませていただきます」
「勉強、頑張れよ。学生の本分は勉強だからな」
「はい……あれっ??このバッグは今のお客様の忘れ物ですか??……そうですよね、お渡ししてきます」

頼むよという声を背中で聞いた森は店を出て、今まさに車に乗ろうとする女性客に声をかける。
「お客さ~ん。忘れものですよ、お客さ~ん……」

駐車場の車止めに腰を下ろした高校生らしい二人連れや店に入ろうとする男性客、歩道を歩く親子が何事かと森と声を掛けられた女性に視線を向ける。
「私ですか??」
「ハァハァッ……これはお客さまのバッグですよね??」
「えっ、あっ、そうです。ありがとう。息が切れるほど走ってもらって、ごめんね……それにしても私の忘れ物だってよく分かりましたね」
「お客様がいつもお使いなっているし、更衣室を出た時に店を出る後姿を見たものですから大急ぎで声を掛けました……ハァハァッ」
「免許証も入っているし、忘れると大変な事になるところでした。森さん、ありがとね」
「えっ、僕の名前を知っているんですか……そうか、仕事中は名札をつけているんだ……厚かましいお願いですが、今日でなくても好いので食事……いいえ、お茶をご一緒していただけませんか??」
「どうして??……まぁいいか。お茶だけなら好いけど、お礼代わりに私にご馳走さてください」
「明日の夕方はどうですか??30分ほどで好いので、おねがいします」
翌日の夕方、駅前で待ち合わせの店と時刻を約束した二人は軽く手を振って別れる。
駐車場を出る車に軽く頭を下げて見送った森は自らの右手を見つめ、店に向きを変えて見つめる先輩に会釈して帰路に就く。

秘かに焦がれていた女性客と店の外で会う約束が出来た事に心が躍る森のニヤニヤ笑いは、事情を知らずにすれ違う人を薄気味悪く思わせて自然と道を譲るような格好になる。
そんな様子に気付く様子もない森は、〽エリー、マイラブ……母親に影響されて好きになった曲を自然と口ずさみ、今にも走り出しそうなほど早足になる。

その頃、家路を急ぐ女はハンドルを握る手に力を込めて、どうしてあんな約束をしてしまったのだろうと自問する。
夫との仲は付かず離れずの関係になって久しく、愛しているかと問われれば愛していると応えるけれど、いつも一緒にいたい、頭から離れることがないということはなくなり、そばにいて当たり前、いなくなれば困るという空気のような存在になっている。
そんな夫に申し訳ない約束をしたと思うものの、コンビニで明るく朗らかに接客する森君に好意を抱いていたのも原因だったのだろう。店の外で会いたいと思ったこともないし、結婚して以来、夫以外の男性とデートしたこともない。

着替えを済ませて鏡の中の見慣れた顔に微笑み、よしと軽く気合を入れて休む間もなく夕食の準備を始める。
手際よく調理を終えて椅子に腰を下ろすと森と交わした約束を思い出す。
どうして、あんなことを言っちゃんだろう……お茶だけなら好いけど、お礼代わりに私にご馳走さてください……何かの進展を期待するわけでもないし、そんな事を考えたこともない。
夫とは、たまには小さな言い争いもするけど、そんな事はどの夫婦にもあるだろうし愛しているし愛されているという自負もある。

コチ、コチ、コチ……いつもは気にしたこともない時を刻む掛け時計の音が静かな部屋に響く。
「ただいま」
「おかえりなさい。夕食の用意が出来ているけど、どうする??」
「疲れているだろうに心を込めて作ってくれた夕食、温かいうちに食べようか」

「ごちそうさま、美味しかったよ……そうだ、明日は帰りが遅くなるので夕食はいらないよ。たまには友達とゆっくりしてきなよ、急で申し訳ないけど」
「うん、ありがとう。そうしようかな、久しぶりにカラオケに行きたいし、美味しいビールでも飲んでこよう」
脳裏に浮かんだ森の顔を追い払うために、さぁ、片付けようと声を出して立ち上がる

その後はいつもと同じようにテレビを見ながら会話を楽しみ、時計を確認した夫がバスルームへ向かうのを見送って片付けに遺漏がないか確かめて翌日の準備をする。
「お先で申し訳ないけど、おやすみ」
いつの頃からか寝室は別になり、それと時を同じくしてセックスからも遠ざかり、性的欲求はオナニーで紛らわすことが多くなった。
夫はどうやって発散しているのだろうと思うこともあるが、肩を並べて座りテレビや音楽を楽しむときの温もりを感じている限り愛が冷めることはないと思っている。
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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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