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水割りのステアは反時計回り

「お代わりを作る??」
「最後の一杯は、ほんの少し濃い目にしてもらおうか……飲みきったら帰るけど、もう一度、乾杯してくれる??」
「咲耶も、もう一杯頼んでもいいの??ありがとう……同じモノをお願いします」
「ドリンクで酔っぱらわないように薄目にしといてよ」
「優しいね。二人っきりの時は酔わせてほしいけど……記憶をなくすほど酔わせてほしいな。もっと飲め、飲めないのなら口移しで飲ませちゃうぞって……」
「真に迫る演技、女優みたいだよ」
「女はね好きな男の前では女優になるの。一度抱かれると女優じゃいられなくなるけどね……、そうか、柏木さんの前じゃ女優のままなんだ。早く仮面を脱ぎたいな」

コツン、コツッ……カシャッ……トクトクッ……トクトクトクッ……カシャカシャッ……キュッ……コトッ。
「咲耶ちゃんのリズムにすっかり馴染んじゃったよ。氷を入れて軽くステアしてグラスを冷やす。ウィスキーと水を入れて掻きまわすときは反時計回り。グラスをキュッと拭いてコースターに。見ているだけで気持ちいいよ」
「時計回りは時間を早く進めるから、お客様に早く帰ってほしいって言う事に通じる。反時計回りは……時間の進行にブレーキをかけて、帰らないでほしいなって言う無言の言葉。ウフフッ、嬉しい??」
「客によって時計回りと反時計回りを使い分けているか聞かせてほしいな」
「ウフフッ、お客様は柏木さんだけじゃないの……秘密」
「今日はベッドで目を閉じると咲耶ちゃんを思い出して眠れなくなっちゃいそうだよ」
「ほんとう??じゃぁ、近いうちに食事に連れてってくれる??」
「好いよ。改めて連絡するよ」

「咲耶さん、おまちどうさまです。どうぞ」
「ありがとう……」
「今日は晴れていたから乾杯」
「乾杯、晴れていたからなの??フフフッ……そうだ、この間、お客様に聞いたんだけど、神保町にあるナントカってエッチな本やDVDを売っている店の社長がテレビで奥さん公認の浮気相手がいるって話したんだって……咲耶には考えられない」
「ふ~ん、それはすごいね」
「テレビで名前を名乗って顔出しで話したから本当なんだろうなってお客様が言ってたよ。それに、それだけじゃないの。ダブル不倫でね、不倫相手は人妻でご主人公認なんだって……信じられないよね」
「奥さん公認の浮気相手って言うのは、あるかなって思うけど、ダブル不倫で両方が公認ってすごいね。奥さんと旦那もセフレがいるって事??」
「どうかな??居ないと思うけど……それにね、浮気相手の人妻と奥さんが親友なんだって」
「元々、付き合っていた男女が別の人と結婚したんだけど関係が続いてるって事??」
「どうだっけ、頭がクラクラしながら聞いていたからよく覚えてないけど、そうじゃないと思うよ」
「世の中は広いね、いろんな人がいるんだ」

「神保町は本屋さんが多いんでしょう??」
「出版社や大手の本屋さんもあるけど、錦華公園てのがあって、そこでは1年に1回、古本祭りをやっていたはずだよ。エロ本屋さんも多かったけど、売り上げも落ちただろうし、すべての店がそのまま残っているとは思えないな。今はどうなっているんだろう??……神保町交差点から水道橋に向かってエロ本やDVD屋さんが多かった。そのほとんどは二階建て程度だったと思うけど、中に一軒、本店と交差点を渡って数分離れた場所にもある店は立派なビルだったよ」
「ふ~ん、昔、裏ビデオって呼んでいたんでしょう??今じゃ、ネットで当たり前に無修正モノを見ることが出来るけど、そういうのを売っていたの??」
「神保町じゃ売ってなかったと思うよ。オレの知らない店があったかもしれないけどね。そういう店は、新宿、渋谷、池袋にあったんじゃないかな」
「行った事がある??」
「何度かあるよ」
「ふ~ん……そういう店は違法な商品を並べてあるわけ??」
「そうじゃないよ。店の中はパーテーションで区切ってあって、商品番号やタイトル名と簡単な説明を書いた写真が貼ってある。パーテーションに沿ってテーブルが並んでいて、アルバムって言うかスクラップブックって言うか同じような商品案内が何冊も並んでいるんだよ。商品は優に千を超えていたと思うよ……客同志、目を合わせることもなく無言で選んで、番号をメモして愛想の悪い店員に渡す」
「そうすると、その商品を奥から出してくれるの??」
「そうじゃないよ。店には商品を置いてないんだよ……その筋の手入れを恐れてね。だから、メモを渡すと、15~20分待ってくださいと言われるんだよ。そのうちに商品を袋に入れたオニイサンが届けてくれるってわけ。店が摘発されて店長や店員が逮捕されてもトカゲの尻尾切りってヤツで、根元が大丈夫ならってことなんだろうね」

「ふ~ん、柏木さんがそんな店に詳しいのは意外だったな……じゃぁ、ついでに聞くけど、いわゆる裏ビデオって、昔はそういう店に行かなきゃ買えなかったの??」
「通販があったよ。一度買うと立派な装丁のカラーカタログを邪魔になるほど送ってくれるんだよ。それからカタログって言うよりパンフレットのポストインがあったけど、これは買ったことがないから分からない。友達から回ってくることもあったし、今ほどじゃないけど割と簡単に手に入った。オレもだけど、ダビング用のビデオデッキを買ったりとかね。当時は2DKの団地住まいだったからVHSの数が増えると息子に見せないように隠すのに苦労したなぁ……クククッ」
「エッチなビデオやDVD好きは分かったけど、本などの活字媒体は??」
「東京駅の八重洲北口には改札内と地下にエロ小説が充実している本屋さんがあったけど、松ナントカって店名が同じだったような気がする。新幹線に乗るときは重宝したよ。上野駅にも正面玄関を出て横断歩道を渡って直ぐのところにサラリーマン専用のようなエロ小説屋があったけど、これはわりと早く立ち食い蕎麦屋になって残念だったけどね」

「なんかエロイ。紳士のイメージだったのに、違っちゃったな。風俗とかは??」
「ないとは言わないけど、あまり経験ないなぁ……イメージと違ったから、これからステアする時は時計回りにされちゃうかな??」
「どうしようかな??洒落た店に誘ってくれたらエロくても我慢できるかも……柏木さんのような中年紳士には甘えと我がまま、それと素直さを上手に使い分けないとね。今までも好いお店に連れて行ってもらったけど、今回は期待を膨らませるよ」
「オレがエロイから??」
「そうだよ。それに、もしも酔っぱらったら最後まで介抱してもらうよ。今回は覚悟してね」
「そんな事を言うと、オジサンは期待しちゃうよ」
「今まで酔った振りしても相手にしてくれなかったくせに……はぐらかしてばかり。こんなにエッチな人にも相手にされない咲耶は可哀そう」
「ごちそうさま。帰るよ……近いうちに連絡する」
「もう……お見送りするの、いいでしょう??」
「ねっとり、エレチューでもするか??」
「いやだ、古い、その言い方。アンッ、濡れちゃいそう……今から咲耶を指名してくれるお客様には申し訳ないけど、気もそぞろで仕事にならないかも」


<<おしまい>>
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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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