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おとぎ話

カップ焼きそば 1/3

ピンポ~ン……「は~い、直ぐに開けるから待って……」
「こんにちは、本当に来ちゃったよ」
「いらっしゃい。本当に来てくれるかどうか、すごく不安だったから20分ほど前からカーテンの陰に隠れて通りを見ていたんだよ……上を見上げた時は見つかると思ってドキドキした。ごめんなさい、急に誘ったりして。それより、場所はすぐに分かった??」
「悪いけど、上がってもいいかな??」
「ごめんなさい。この部屋に男の人を迎えるのは初めてだから昂奮していた。どうぞ、お上がりください」
「ありがとう、これはオミヤゲ」
「えっ、これって本店でしょう??私がこの店のスイーツを好きだって言ったのを覚えていてくれて、本店まで行ってくれたの??ねぇ、そうなの??」
「川を越えればすぐだろう、わけないよ」


「勉強を楽しんでいる??」、「うん、好きな事だから楽しい」、「そうか、勉強もアルバイトも好きなままでいてくれよ」
男の目は娘を見るような慈愛と優しさに満ちている。
「今日も三杯で終わりなの??」
「そうだよ、セットに追加一本で水割り三杯。これでオシマイ、飲み終えたら帰るよ」
「うん、分かった。柏木さんて食べるのが好きですか??興味ありますか??」
「食通とは言えないけど、初めての食べ物って興味あるよ」
「ふ~ん、今まで食べた中で、これは珍しいって言うのは何ですか??」
「高知空港のウツボ定食、中国でセンザンコウ、タドリ。タイで虫の素揚げ。そんなところかな」
「ウツボ定食にセンザンコウ、タドリ、虫の素揚げ……食べちゃいけないものも含まれていませんか??」
「ワシントン条約。その時は気が付かなったし何の肉か分からないまま食べちゃったからなぁ……」
「そうなんだ、タドリって現地語ですか??」
「カエルだよ、田鶏って書くらしいよ、本当か嘘か知らないけどね。出張した時に現地工場で仲良くなった人が福建省の海岸から500㎞ほど離れた実家へ帰るときに招待してくれて、歓待を受けた時の食事。飲物は青島ビール」
「ビールは好きじゃないんでしょう??」
「ビールしかなかったから、しょうがない。ジュースはスイカとクワイ」
「クワイ??正月のクワイ??あれがジュースになるんですか??」
「クワイだって言うし、缶にはクワイらしい絵を描いてあったよ」
「なんか楽しそう……柏木さんの話ほど珍しくないけど、うちに焼きそばがあるんだけど食べに来ませんか??」
「こんな話の後じゃ断りにくいけど、沙希ちゃんの家はまずいだろう」
「どうしてですか、私は構いませんよ……地図を用意しときました。受け取ってください。いつ来てくれますか??」
「困ったなぁ。じゃぁ、明日でもいいかなぁ??」
「いいですよ。柏木さんて案外とせっかちですね、私は今日でもいいけど、アフターは付き合ってくれないもんね」
最後は切り口上で話す沙希に押し切られる格好で約束する。


「女の人の部屋に慣れているんですね、すごく落ち着いているしキョロキョロしない……私なんか柏木さんが通りを歩いてくるのを上から見るだけでドキドキしたのに……ほらっ、ねっ」
柏木の手を取った沙希は左胸の膨らみを気にする様子もなく押し付け、心臓の鼓動を確かめさせる。
「すごいでしょう??柏木さんはどうなの??……やっぱり、あ~ぁ、昂奮しているのは私だけでバカみたい。独り住まいの女の部屋でドキドキしないし、オッパイに触れてもドキドキしないなんて感じ悪い……ウフフッ」
「大した経験があるわけじゃないけど、馬齢を重ねて面の皮が厚くなったのかもしれないね」
柏木の左胸に手の平を押し付けても激しい鼓動を感じることは出来ず、にこやかに笑みを浮かべるだけの表情を見た沙希は、わざとらしく憂いを浮かべた表情を怒りに変化させ、最後には苦笑いする。

夏の日差しを浴びて火照った身体にエアコンの効いた部屋は心地好く、窓は二人の邪魔をしようとして侵入を図る眩い夏の陽光を反射してギラギラ光る。
白い短パンに青シャツを着けて袖をロールアップした沙希は若さに溢れて眩しく、それが柏木の性的好奇心の芽生えを抑えてくれる。
シンプルにさえ見える片付いた部屋に頬を緩め、机と本棚にある本の背を見て安心する。
「今の視線は娘がまじめに勉強しているか監視に来た父親のようで感じ悪い」と、軽口をたたく。

一時の昂奮が冷めた沙希は、
「水割りを作りますか??」
「えっ、沙希ちゃんて一人で水割りを飲んでいるの??」
「違いますよ、柏木さんのために用意したんです……言いたい事は分かっています。学生であることを忘れていません、たまには無駄な事をして気持ちのバランスを保つ努力をしないと……そう思うでしょう??」
「うん、人は成長する過程で年齢に応じて経験すべき事、経験した方が好いことが色々あるけど、あれもこれも経験しとくことは好いことだし必要だと思うよ。一見、無駄と思える経験も反面教師って事も含めて役に立つと思う」
「お店でもそうだけど、柏木さんてどんなことも悲観的に考えないですよね」
「意識しているよ。空元気でもいいからポジティブにってね。悲観的な見方をすると筋肉は硬直するし、考えも過去や内側に向いちゃうだろう」
「じゃぁ、私もポジティブシンキングでご馳走します。カップ麺だけど、美味しいと思ったら一つだけ私の希望を叶えてください。約束ですよ」

「チョコレート焼きそばは、どうでしたか??」
「う~ん、なんと言えばいいのかなぁ……不味くはないし、どちらかと言えば美味い。焼きそばもそうだけど麺類は好きだしチョコはよく食べるよ。液体ソースの封を破いた瞬間に漂う匂いがチョコ、嫌いになるわけがないし、いい意味で期待を裏切られた感じがする」
「そうでしょう。友達に勧めたら額に手を置いて、あんた熱がないって言われたんですよ。酷いと思いません??」
「その人の感想だから憤慨する方が大人げないと思うけど、バレンタインデーにはうけるんじゃないかな??」
「今年のバレンタインデー前に発売されていたんですよ。それはそうと、美味しいって言ってくれたんだから、お願いを聞いてくれますね」
「絶対にとは言えないよ。拒否する権利も留保させてくれるね」
「クククッ、どうしようかな……それでは二つ希望を言うから柏木さんが選んでください。それが譲歩できるギリギリの条件です」
「困ったいじわる娘だな、沙希ちゃんは……お手柔らかに頼むよ」
「いいですよ。一つ目は同伴名目でデートしてもらう……二つ目は……二つ目は、思っていたことは恥ずかしくて口に出来ないから普通にデートしてもらう。二つの中から選んでください」
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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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