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彩―隠し事 25

栞      

今日も満員の通勤電車に乗る優子は前日のように痴漢にあうこともなく、波間に漂う木の葉のように電車の揺れに身を任せて楽しむ余裕さえある。
電車の揺れを不快と思うか心地いいと感じるかは自分次第。
足早に遠ざかる景色を見ながら心の内に意識を向ける。

優子を知る人は仕事も出来る清楚で上品な人妻と言ってくれる。
同世代の女性と同じ程度の異性経験があると思っているものの、不倫や浮気を許せない性格だと思っていた。健志と付き合うようになってからは夫の浮気も気にならないし、周囲の微妙な変化を楽しむ余裕が生まれた気がする。
彩だから健志と付き合える。
優子のままでは自分に対してさえ不倫を許せない。
優子は自分の事を人見知りする質だけど、何かのきっかけで自分でも驚くほど大胆な事をすると自己診断していた。それは微妙な勘違いで、実は心の奥深い処に潜んでいた彩のせいなのかもしれないと思うようになっている。
今まで稀にしか姿を現さず優子さえ存在を気付かなかった彩は、健志と知り合って頻繁に姿を見せるようになった。


「鍬田君、今日の会議も君のリードで私たちが望む結論を得ることが出来た。ありがとう……特に付属資料のこの部分、あっ、ごめん……この部分が良かったよ。説得すべき上司が意見を付け加える余地を残しながら外堀を埋める。上司のプライドを保ちつつ味方に付ける。見事としか言いようがない」
「課長に褒めてもらうのは嬉しいですが、偶然です」
「謙遜しなくても分かっているよ。専務は自分より利口な人の存在を許せない人だからな。私の若い頃は上司も含めて言い負かすことしか考えていなかったよ」
資料に伸ばした指が優子に触れたとたん、不自然に顔を背けて、ごめんと謝った課長が可愛い。
「じゃぁ、課長、昼食をごちそうしてください……だめですか??」
「いや、それで鍬田君の頑張りに報いる事になるなら喜んでごちそうするよ」
「じゃぁ、さっそく今日、いいですか??」
「いいよ、普段、付き合いの悪い私が鍬田君と二人だと誤解される恐れもあるから、深沢君も誘ってくれよ。仲が良いんだろ??」
「はい、大学時代からの親友で、就職も同じ処がいいねと約束した仲です。気を遣っていただいてありがとうございます」

「優子、今日の昼食はどうする??」
「どうしようか??私と栞、こんなに好い女が二人もいるんだから誰か男におねだりしようか??」
「えっ、良いけど、本気なの??昨日は優子のような真面目人間を変なところに連れてっちゃったかなぁ??今更だけど、ごめんね」
「そうだよ、栞には昨日のAV撮影見学やSMショークラブなど私には無縁な場所を教えてもらった……人間の幅が広くなるってヤツだね」
「クククッ、やっぱりできる女は言うことが違う。それで、誰におごらせるの??」
「誰だと思う??……課長だよ。課長に栞と私の昼食をごちそうしてもらうの、嬉しい??」
「優子、あなた、まさか昨日のAVに感化されたわけじゃないよね??浮気相手なら私が見つけてあげるから課長は止めなさい」
「そうじゃないよ、今朝の会議が上手くいったからお礼代わりにご馳走してくれるって……ぜひ、栞も呼んでくれって課長のご所望だよ」


「いつも君たちには世話になっているからね。こんな店しか知らないけど満足してくれるかな??」
「やっぱり課長はカッコ好いです。おしゃれなイタリアンが女子受けするからって無理することなく、ご自分が知ってるお店に案内してくれた。そんな男性が私は好き……優子のおまけで誘われた私が言うのは厚かましいですが、居酒屋に誘ってほしいです」
「えっ、本気にするよ。私は真面目だけが取り柄で面白みのない男だと思っているけど、それでも良ければ案内するよ」
「嬉しい、約束ですよ、課長。指切りしましょう……指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます……優子、証人になってくれるでしょう??」
「栞、よしなさいよ。課長が困ってるよ」
「いや、そんな事はないよ。深沢君のような魅力的な女性と居酒屋に行けるなんて想像もしてなかったよ」
「ごめんなさい、言い出したら聞かないんです、栞……いえ、深沢さんは」
「そうか、らしいな……フフフッ、その時は鍬田君も一緒だろ??」
「課長、優子がいなきゃダメですか??そりゃ、優子は仕事も出来るし女としての魅力も私よりあるだろうけど……そんな事を言われると寂しいな」
「……はははっ、いや、困ったな」

隣に座る栞が優子の足を軽く蹴って、居酒屋には私と課長の二人で行くのを邪魔しないでと伝えてきたので焼き魚に箸を伸ばして無言を通す。
「課長、善は急げって言うでしょう。今日連れて行ってください……奥様に連絡しないと返事を頂けないですか??」
「深沢君がこんなせっかちだとは思わなかったよ。今日は早朝会議の結果について専務と協議する予定だから駄目だよ……明日にしてくれないか??」
「うわぁ~、嬉しい。絶対に約束を守ってくださいよ」

上司として信頼できるし尊敬しているものの男性として意識したことはない優子は、二人のやり取りを聞いて微笑まずにいられない。
課長のはにかんだような笑顔を可愛く思うし、食事する時の姿勢や箸の使い方などの所作に洗練された美しさを感じ、栞が二人で居酒屋に行きたいというのも判る気がする。
夫がプロポーズしてくれた時に同じような言葉で私を褒めてくれ、大切に育ててくれたご両親から結婚の承諾を得たのだから、これからは俺が優子に愛情を注ぐと言ってくれたのはいつの事だったろうと思うと苦い気持ちがこみ上げる。

昨日、見学したAV撮影の課長は専務の愛人である部下の社員にそそのかされて3Pをした挙句、上司の派閥に入って意のままに動くことを誓った。
目の前の課長は残業で専務と打ち合わせをするらしい。
楽しそうに話す栞の横顔を見ると、昨日のAV女優さんに似ているような気もする。
「なによ、優子。私が課長と二人で居酒屋に行くのが気に入らないの??」
わざとらしく怒ったような栞の剣幕に課長と優子は顔を見合わせて笑みを浮かべる。
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Author:ちっち
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