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お伽話

心花 -2

不思議な縁で結ばれそうな女と別れた帰路、夜空で微笑む満月に視線を移すと自然と笑みが浮かぶ。

金曜日の約束を確認した女はオレの手を取り、手の平に心花と書いて、
「私の名前。読める??」
「心花と書いて、どう読むか??幾つか読み方があるけど、みか・・・みかさん??」
「スゴイ・・・正しく呼んでもらったのは久しぶり。同じ名前の人と付き合ったことがあるの??」
「ないよ、たまたま知っていただけ」
「字も読み方も好きなんだけど正しく呼んでもらえないと寂しいよね・・・ありがとう」
ベンチで隣り合って座り、覗き込むようにして相好を崩した表情で見つめられると妙にドキドキして思わず顔を背けてしまった。
「ウフフッ、照れてるの??好い女に見つめられると恥ずかしい??・・・金曜に口説かれるのを楽しみにしてる。これ以上そばにいると口説かれる前に口説きたくなりそうだから帰るね・・・ウフフッ、金曜が楽しみ。今日は、ありがとう」
立ち去る心花の後ろ姿は凛として、見ず知らずの男に愚痴をこぼした事など感じさせずに颯爽と歩いていく。
エルメス香水の残り香はインド洋に浮かぶ孤島で砂浜に寝転がってみる景色を想像させ、スパイシーな爽やかさの中に緑や海の匂いを感じさせる。

心花はどの店の雰囲気に合うかと想像しながら歩いていたものの、揶揄われている事を全く想像していない事に苦笑いを浮かべる。
あれほどの好い女とひと時とは言え楽しい時間を過ごせたことを喜ぶ余裕があるかと自らに問う。
金曜日、心花と名乗った女性が来なくても腹立たしく思うことなくブランコを揺らす事が出来るだろうと結論して空を見上げる。


「ごめんなさい、待たせちゃって」
先日と同じベンチに座って時刻を確かめているタイミングで目の前に立つ心花は、爽やかな笑顔と香りでオレを魅了する。
「心花さんはピタリだよ。私が早く来ただけだから」
「クククッ、この前は確か・・・オレって言ってなかった??」
「今日はまだ酔ってないし、心花さんの魅力に負けちゃってるね・・・焦ってるように見える??」
「ごめんなさい、そんな意味じゃないから気にしないで・・・う~ん、この間の約束って言うか話を忘れてくれる??」
「えっ、どうして?・・・・そうか、そうだよね。ごめん、本気にしたわけじゃないから安心していいよ」
「言い方が悪かった、ごめんなさい・・・今日の私は誤ってばかり。約束だから口説いてもらうんじゃなくて、その気になったら口説いて欲しいの・・・ダメかな??」
「口説く時は本気でって事だね、いいよ分かった・・・そのための時間をもらえるんだろう??」
「うん、もちろん・・・です。ウフフッ・・・」
「食事は済ませた??・・・私も済ませたから、バーに付き合ってくれる??」
「オレの方がいい。あの日以来、あなたの事をオレでイメージしてたから。ダメ??」
「クククッ・・・飲みに行こうか??オレと」
「あぁ、不自然。今のオレは嫌味だよ・・・罰として、もしも私が酔っ払ったら面倒見ろよ、分かった??」
こぼれそうになる笑みを隠すために空を見上げると、先日の満月から右側がほんの少し痩せた月が、上手くやれよと微笑んでくれる。

「少し歩くけど大丈夫??」
「大丈夫、優しい事は分かってたけど気配りをありがとう。ハイヒールでも平気」
数分歩いて、フランス料理とワインの店に入り予約してあった二人用個室に案内される。
ワインに詳しくない男はいつものように料理をオーダーしてそれに合うワインを選んでもらう。
「鴨肉のコンフィは赤ワインの方が合いますが、どうします??」
「今日は何が何でも白とは言わないで任せるよ・・・私にも人の意見を聞く耳があるからね」

「白が好きなんだ。コンフィに合わせて赤は私のためなの??」
「店自慢のメニューだから美味しく食べてもらわないと店にも心花さんにも失礼だからね」
「ワインの飲み方がどうのって講釈を垂れるより好きだよ。好きなものを好きなように飲む、必要があればプロの助言を受け入れる・・・仕事のパートナーもそんな人なら良いんだけどね。あっ、ごめんなさい」

鴨肉のコンフィ、生ハム、野菜サラダ、ピクルスなどを口にしながらワインを飲むうちに二人の精神的な距離が接近し、絡み合う視線に妖しさが混じる。
男は焦りを隠すようにグラスのワインを一気に飲み干して渇きを潤し、胸が締め付けられるような思いに苛まれる心花は最後に残った生ハムを口にする。
「この後の予定は??」
「今日は金曜だからもう少し一緒にいたい。心花さんの時間をオレにくれる??」
「もう少しでいいの??・・・どれくらいの時間??」
男はポケットからカードキーを取り出して心花に見せる。
「クククッ、セクハラだよそれは」
「そうか、そう取られてもしょうがないね・・・場所を替えて飲み直そうよ」
「飲み直しか・・・魅力的な言葉だけど、あなたの下心が気になるし、はいはいって言うほど安い女と見られるてるのかなぁ??」
「その言葉は心外だな。一目惚れ、降参します。飲み直しの機会を与えてください、お願いします」
「ウフフッ、分かった、分かったから、もう止めて」

ホテルのロビーは週末を過ごす人や食事をする人たちでにぎわい、ラウンジで奏でるピアノ曲が立ち寄る人々の表情を和ませる。
男に促されて部屋に入った心花はテーブルを見つめて、エッと驚きの声をあげて背後に立つ男を振り返って顔をほころばせる。
真っ赤なバラの花が一輪とシャンパンクーラーに入ったボトルが二人を迎えてくれる。
「キスしても許してあげる」
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ちっち

Author:ちっち
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