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不倫 ~immorality~

想いを巡らす 二日目 1

「おはよう、今日も好い天気だよ」
「おはよう・・・眠くて目が開かない、モーニングキスを早く・・・」
カーテンを開いて陽光を迎え入れると枕を抱いて眠っていた彩は片目だけを眩しそうに眇めて手を伸ばす。
チュッ・・・伸ばした手を取って甲に唇を合わせて音を立てると尖らせた唇を突き出して、そこじゃないと抗議する。
「可愛いな、彩は・・・起きて頂けますか私のお姫様」
とっておきの笑顔で彩に近付いて軽く唇を合わせ、両手を背中に回して抱き起こす。
「健と一緒になっていれば目が覚めると朝食の用意が出来ているんだよね・・・何処にあるの??彩のカプレーゼとソーセージは??」
「ごめん、カプレーゼを用意するのを忘れてたけど、ソーセージやコーヒーはリビングに届いてるよ」

ナイトシャツを着けたままリビングに移った彩は鼻を蠢かして目を見張る。
テーブルの中央には花が飾られ、届いたばかりらしく湯気をあげるコーヒーや卵、ソーセージが並んでいる。
「彩はオレンジジュース、プレーンヨーグルト、ポーチドエッグとソーセージ、パンにコーヒーにしたけど良いよね??ヨーグルトはシリアルとの選択なんで、健康美人の彩にはオールブランが好いかなって思ったけど、牛じゃないから枯草みたいな味は好きじゃないって言われると困るから・・・」
「うん、ヨーグルトで良かったよ。ベン何とかじゃないから食物繊維の量を意識しなくてもいいから・・・それより、この花はセットなの??それとも・・・なの??」
「彩のために用意してもらったんだけど気にいってくれた??」

陽光を反射してキラキラ輝く横浜港は真っ暗で隠し事を人目に晒すことなく飲み込んでくれると思った印象はどこへやら、船の出入りも頻繁にあり見ていて飽きることがない。
朝食を終えた二人は平日の街を行きかう人たちを見ながら彩はコーヒー、健はミルクティーを手にして誰にも邪魔されない時間を過ごす。
言葉は必要ない。
空間と時間を共有するだけで穏やかな気持ちになり、やがて二人の呼吸や鼓動が同調していくのを意識する。

せっかくの横浜。二人で歩いた昔を思い出しながら散歩する。
ホテルを出て桜木町から伊勢佐木町をゆっくりと記憶をたどりながら歩く。
春から夏には豊かな緑に彩られる伊勢佐木モールも今は秋、木々に代わって街を歩く人たちがセンス溢れる服装でこの街の良さを引き立てる。
阪東橋で折り返して前日、食事をした店の近くを通って横浜スタジアムを仰ぎ見ながら中華街を目指す。
中華街で軽い食事を済ませた二人は山下公園にたどり着く。

マリンタワーを見上げた彩は、
「昔、二人で来た時の事を憶えてる??」
「えっ、あぁ、憶えてるよ。世界鳥類園って言ったっけ??オオサイチョウが彩の被っていた帽子を銜えちゃったんだよな・・・忘れるわけないよ。いつだか昇った時に施設が無くなってたことを知って彩の事を思い出しちゃったよ」
「ウフフッ、誰と来たかは聞かないであげる・・・健も覚えていたんだ。あの頃は楽しかったな・・・帰りに大きな風船を買ったのを憶えてる??」
「うん、憶えてるよ・・・確か赤い風船だったよね??」
「そう、赤い風船。憶えていてくれたんだ・・・健と別れてからの電車で小さな女の子が欲しそうにしてたんだよね」
「ふ~ン、それでどうしたの??」
「楽しく過ごした一日の最後に買った風船だったから、手放すと健との仲も切れちゃうような気がしたのであげなかったの。視線が合わないように背中を向けたような記憶がある」
「そうか・・・赤い風船、そんな名前の旅行会社の企画が有ったっけ」
「冗談を言わないで・・・想い出に浸ってるんだから。そうか、健は望んでなかったんだ」
「なんの事??」
「彩はね、鬼になって小さな女の子から風船を守ったんだけど、家に置いといたら数日のうちに萎み始めちゃったの・・・正直に言うと、健と疎遠になったのはあの風船のせいじゃないかと思ってるの」
「彩とオレ、二人の想い出が詰まった風船が萎んじゃったからか・・・今となっては彩と別れた理由が分からないけど風船が理由だったのかもしれないね」
「うん・・・あの風船が、その後も折に触れて脳裏をよぎるんだよね・・・健を相手に言葉にしたからスッキリした・・・それより気になるんだけど、さっきから時計を気にしてない??」
「うん、ちょっとね・・・」
「昨晩も彩に先に寝て良いよって言ってからリビングでPCを開いてたでしょう??株が気になるの??いいよ、やっても。帰ろうか・・・」

ホテルに戻った二人はエスプレッソメーカーで淹れたコーヒーを手にしてソファに座る。
平日の午後、横浜の街の喧騒は聞こえずコーヒーの香りが漂う部屋はアンニュイな雰囲気で時を刻んでいく。
「やらないの??株・・・いいよ、やっても」
「いや、せっかくの彩との時間をそんな事でつぶしたくない」
じゃぁ、どうしてと言いかけた彩を制するようにドアチャイムが鳴り、来客の到来を伝えてくれる。
「来たようだよ、彩。彩を満足させてくれるかどうかわからないけど、ご主人には秘密の彩とオレだけの秘密を作ってくれる人が・・・」
困惑と不安を浮かべた彩をその場に残して立ち上がった健はドアに向かう。
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