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待ち合わせ

待ち合わせ 1

約束の場所に着いた女は時刻を確かめ、男が来るはずの方角に視線を巡らせる。
九月になっても曇りや雨天が多く、すっきりした空模様は少なかったもののシルバーウィークは雨が降る事もなく、連休最後の今日も太陽が姿を見せて秘めた思いの後押しをしてくれているようだ。
連休は店を休みにして前半の二日間は実家へ帰り、両親の、いつまで水商売を続けるのだ、女の幸せは店を続ける以外にあるだろうと、いつもの小言を聞いてきた。
あの子に二人目の子供が生まれたらしい。あの子がついに結婚したよ。私を心配している事は分かるが、同居している兄夫婦の子供の面倒を見ていれば幸せなはずだろうに、欲深い両親だと反抗心も芽生えてしまう。

今日は気の合うお客様と店外デート、毎週水曜日の決まった時刻に来て、ジントニック二杯と水割り一杯を飲んで帰っていく。
噂では、気に入った女性を直ぐにデートに誘うという事だったが誘われる事もなく、プライドを傷つけられたと思ったわけでもないが最初のデートは自分からおねだりして、キネティックアート展に行った。
その日は、こんな日のためにと買い置いてあった勝負パンツを身に着けたものの、下着姿になる事もなくサヨナラを言った。
その後も毎週、水曜日の決まった時刻に現れ、ほぼ週一度の店外デートを続けているから私の事を嫌いでは無さそうだ。
今日は水曜日、店は休みにしたので彼の帰宅時刻だけを気にすればいい。

手をかざして陽射しを顔で受け、気持ち良いと心の中で呟いた時、
「お待たせ・・・日焼けしたいなら海へ行こうか??」
車の中の男は、眩しそうに目を細めて頬を緩め、いつもの笑顔を向けてくる。
「おはよう。わがまま言ってゴメンネ。毎回、私の行きたい場所ばかりで」
「好いさ、わがままを魅力的と思わせる女性が好い女、わがままに眉を顰めたくなるのは嫌な女。アユは勿論、前者・・・乗って」
バタンッ・・・女がシートベルトを着けると、
「夜のアユも惹かれるだけど、太陽の下で見ると魅力倍増。ドキッとしちゃったよ」
「本気で言ってる??」
後に続く、本当にそう思うなら押し倒しちゃえばいいのに、と言う言葉を口にせずに男の横顔をじっと見つめる。
視線を合わせる事を恐れるように、男は前を向いたままたわいのない事を話す。
一時間ほど経過し車中の話しが屈託なく弾み始めた頃、目的のギャラリーに到着する。


トーマス・マックナイトのシルクスクリーン作品を買ったアユは、上気した顔を笑みでクシャクシャにして車に戻る。
「ありがとう。予算よりも高価な作品を気に入っちゃって、不足分を借りる事になっちゃった・・・」
「誕生日とクリスマスプレゼントという事にしといてよ」
「えっ、いいの??クリスマスは3ヶ月先だし、誕生日まで半年もあるよ・・・好いの、本当に??」
「プレゼントさせてくれよ。それに、トーマス・マックナイトの名は初めて聞くわけでもないんだ。アメリカ生まれの彼は神戸の街が好きだったよね、確か。オレも神戸が好きで、高校生の頃はよく遊びに行った場所でもあるんだ。神戸を題材にした作品の在庫がなかったのが残念だったけどね」
「マックナイトを知ってるの??どうして??」
「どうしてかな??神戸が好きって、なんかで見たんだろうな・・・それより、どうする??食事にしようか??」
「う~ん、早く帰りたい。私の部屋に飾ればどんな風なのか早く確かめたいの、ダメ??」
「クククッ、大好きなモノを手に入れた子供みたいだな、いいよ、帰ろう」
男を部屋に誘う撒餌までは予定通り、釣り上げるまでは焦ることなく慎重にと自分に言い聞かせたアユは、秘かに深呼吸する。

食事もせずに帰りたいと言っても嫌な顔一つしない。
優しいと思うと同時に、もう少し強引にオレの言う事を聞けって言われてみたいと物足りなさを感じる。
このまま部屋に誘い、食事を終えて暑いからとシャワーを浴びたら押し倒してくれるだろうかと想像すると、自然と動悸が激しくなり頬が火照るのを止めることが出来ない。
「本当にお気に入りの絵を手に入れたようだね。興奮で顔が火照っているよ・・・」
絵を手に入れた事が興奮のすべてと思っているのかどうかは分からない。一緒に喜んでくれている姿を見ると、自然と身体が疼き股間がキュンとなる。
抱かれたい・・・今日こそ抱いて欲しい。
今日も相手にされず、もしも、部屋にも入ってくれないようなら、どうしよう??
二度と会いたくないと思う気持ちと、それでも離れたくないと思う気持ちが入り乱れて車窓の景色さえもが焦点が定まらなくなってしまう。

「あのさ、このままってのは時間も中途半端だから、途中で何か買ってアユの部屋で食べるって言うのはどうかな??ダメか??」
「えっ、うん、好いよ。残り物で良ければ昨日のビーフシチューがあるからパンを買うだけで食事できるよ。ご飯が良ければすぐに炊くし・・・御礼代わりに腕によりをかけて作るからね」
何度か誘っても決して入ろうとしなかった部屋に自分から行こうと言った。
不安が杞憂になった事で饒舌になったアユは、自分でも止めようのないまま次から次へと話しかけ、男は頬を緩めて相槌を打つ。

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