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堕ちる

堕ちる-9

「それじゃ、1時間後に駅前のホテルのロビーで待っているよ」
ケータイをテーブルに置いた新田を見つめる瑞樹の表情は、嫉妬心というには穏やかであり、同情というには浮かべた笑みが平静に過ぎる。
「うん??・・・言いたい事があるようだね」
ソファに座る新田の両手を払いのけるようにして腿に座った瑞樹は、両手を首に回して黙って目を閉じる。
口元を緩めた新田は指を伸ばして瑞樹の髪を整え、顔の輪郭を確かめるように指を這わせる。輪郭を確かめた指は鼻梁をなぞり唇に沿って一周する。
「焦らしちゃ嫌・・・早く」
目を閉じたまま唇を尖らせて可愛く突き出す。

「妬いているわけじゃないよな??」
ハァハァッ・・・キスの満足感と共に苦しげな息をする瑞樹を見つめる新田の視線は優しく温かい。
「さぁ、どうだろう・・・もしもだけど、私がいなければ紗耶香さんをオークションに掛ける」
「気になるか??・・・どうだろうな??」
「ふ~ん、私と紗耶香さんの順が逆になっていたら・・・私がオークションに掛けられて、紗耶香さんがあなたとキスをする事になってた??」
「どうかな・・・悪いけど、夕食の約束はキャンセルだよ」
「あなたと暮らすようになってから、何人かリクルートした女性を知っているけど、紗耶香さんに対する態度が今までと違うような気がする」
「たとえ言う通りだったとしても何も変わらないよ・・・あっ、言い忘れていたけど瑞樹は明日から休みになっているからね」
「ほんとう??・・・ウフフッ、嬉しい。約束通り旅行に行けるんだよね??」
「そうだよ、瑞樹の行きたい所へ付き合うよ。予定なしで思いつくままが良いだろう??」
我慢しきれず、こぼれんばかりの笑みを浮かべる瑞樹の頬に唇を合わせた新田は、行ってくるよと声を掛けて待ち合わせのホテルに向かう。

ホテルのロビーにはどこか陰鬱な様子でソファに座る紗耶香がいる。
新田の知っている紗耶香はキラキラ輝く瞳で真正面から見つめ、魅力的な唇が愛を語る。
そんな紗耶香の、いつもと違う様子を気遣って、
「疲れているようだね、我慢出来なくなって連絡しちゃったけど、ごめんね」
「わたしこそ、ごめんなさい。しばらく帰れないって聞いていたから驚いちゃった・・・どうしたの??」
「うん、本社で急な打ち合わせがあったから帰ってきたんだよ。今日中に戻らなきゃいけないんだけどね」
「そうなんだ・・・時間ある??」
「今日中に戻れば良いから、3時間くらいは大丈夫だよ・・・食事しようか、どう??」
「正直に思っている事を言っても良い??怒ったり笑ったりしない??」
「怖いね・・・笑わないし、もちろん怒ったりしないよ。約束する」
「・・・あのね・・・笑わないでね・・・抱いてほしいの。だめっ??」
「クククッ、同じことを考えていた・・・ここで待っていてくれる??」

フロントに向かう新田の背中を見つめるだけで身体が火照ってくる。
両手を頬に添えて紅潮しているのを感じ、持て余す羞恥心で身体の昂ぶりを意識する。
ロビーにいる人たちが異変に気付き、女性は不審の目を、男性はいやらしい視線を向けているような気がして顔を上げることが出来ない。
ドクッドクッ・・・耳に届くほど動悸が激しくなり、ますます頬が紅潮して耳まで熱くなる。
両手は自然と胸を掻き抱き、乱れているはずのない衣服を気にする。

「どうした??熱があるんじゃないの??」
「えっ、うぅうん・・・大丈夫。部屋をとってくれたの??」
「あぁ、ダブルルームがあったよ・・・本当に熱があるんじゃないんだね??」
新田は紗耶香の額に唇を軽く押し付けて熱がないかどうか確かめる。
「大丈夫だってば・・・早く部屋へ行こうよ」
弾けるような明るさとは言えないものの、何かが吹っ切れたかのように紗耶香の表情に笑みが戻る。
両手で腕を抱くようにして寄り添った新田の身体に擦れる乳房がもたらす快感が心地良い。
ロビーにいる見ず知らずの人たちが自分を見ているようで自然と表情が強張ってしまう。

「紗耶香、カジノに行きたいかもしれないけど今回は諦めてくれよ」
「えっ、うん・・・別にギャンブルが好きって言うわけでもないから大丈夫。新田さんと一緒だから良いの・・・一緒に過ごす時間は何をしても楽しいの」
「そうか、何をしても良いのか。本当か??」
「ウフフッ、知ってるくせに。今は、久しぶりだから抱かれたいの・・・あなたの腕の中で啼かせて・・・」
覗き込むようにして見つめる紗耶香の一途な思いを感じ取った新田は応えきれるかとたじろいでしまう。
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