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堕ちる

罠-2

「ほんとうに誘ってくれてありがとう。新田さんのメールが届いてないかなって毎日、毎日、何度もスマホを見ていたんだよ」
ようやく仕事も一段落したから約束の競輪に行こうか。そのあとは美味いものでも食べて同伴はどう??
瑞樹と話した夜、紗耶香の勤めるキャバクラで翌々日のデートに誘った新田の言葉に、嬉しい。約束を忘れないでいてくれて、その上、同伴までしてくれるなんて・・・新田さんには迷惑だろうけど好きになっちゃいそう。
女性は愛すべきもので嘘などあろうはずがないと思っていた頃が懐かしいと思いながら、新田は心の内で舌を出す。

待ち合わせ時刻を過ぎて何度目か時計に視線を移した時、紅いコート姿で紗耶香が駆けてくるのが見える。
白いロングマフラーがモコモコと首に巻きつき、白いニット帽を被って手を振りながら息を切らせて走る姿に一瞬、オレの心が痛む。
ニット帽の後ろで跳ねているポニーテールを見ていると、約束の時刻に遅れなければ、この先の計画を取りやめにしたかも分からないと思えるほどキュートで可愛い。
「そんなに急がなくてもいいのに。転んだらどうするんだよ・・・」
「そんな優しい事を・・・部屋を出ようと思ったら、お父さんの身体の調子が悪いって実家から電話があったの。ごめんね」
「競輪も同伴もいつでも出来る事だから無理しなくて良かったのに・・・」
「うぅうん、母の話をよく聞いたら大したことがないんだって。ちょっと疲れが溜まったみたい・・・この話はこれでオシマイ。心配してくれてありがとう」

先日、営業メールにつられて店へ行った時の事。
「紗耶香さんは、お父さんが急に入院されたとかで今日は休んでいます。せっかくのご指名ですが申し訳ありません・・・・・」
よくよく身体が弱い、ご尊父なんだろうと心の中で独り言ち、皮肉っぽい笑みを浮かべる。勿論心の中だけの事、紗耶香に見せる表情には、これ以上は無いほど心配しているよオーラをまき散らす。

「優しすぎる。待ち合わせ時刻に遅れて寒い中で待たせちゃったのに一言も怒らないで私の事を心配してくれる・・・新田さんは優しすぎる。新田さんに愛される人は幸せだろうな・・・」
白々しいと思う気持ちと、これ以上猿芝居を続けるのには寒すぎると言う思いでオレは紗耶香の腰に手を回して歩き始める。

「あと約3分で車券の発売を中止します・・・・・」
「お客さんに競馬場に連れて行ってもらった事があるんだけど、もっと混んでた印象があるけど・・・」
「そうだな、昔は競輪場も混んでいたけど、今は2000~3000人、時には数百人って事もあるよ。人気落ちもあるけど、ネットで購入するからね・・・俺は時速70km位のスピードで目の前を走りすぎていく、シャァ~っていう音の魅力に誘われて時々見に来るけどね・・・このレースは買わずに見るだけにしようか、自信のある次のレースを待つことにしよう」

1コーナーの入り口、ゴールラインを正面に見る位置でレースを見る事にする。
「こんな所を走れるの??・・・すごい傾斜、歩くのも難しそう」
「ここは他の競輪場と比べても傾斜がきつい方だよ。レムニスケート曲線っていう数学的に計算した角度や直線の長さが特徴の競輪場だよ。そんな事はどうでも良いけどね・・・まぁ、歩くのはムリだろうね。あっ、レースが始まるよ」
発走いたしますと言う案内があり、号砲が鳴ると同時に9人の選手がスタートする。
残り1週半までレースのペースを作り風除けにもなってくれる先頭誘導員の後
ろで、有利なポシションを狙う動きが有り並びは直ぐに決まらない。
残り2周になると後方にいた選手が前に踏み込み、それに合わせて中団の選手も動き、レースはゆっくりと周回していたのが嘘のように激しくなる。
残り1周半になるとジャンと言われる鐘がなり、先頭誘導員はコースを外れてレースは一層激しくなる。スピードが上がり、後方を走る選手を警戒して、その動きを確認したり、追い抜いて行こうとする選手を妨害するために車体を寄せて行ったりと目まぐるしく動く。
レースは残り1周半で先頭になって逃げていた選手の力が上だったのか、中団や後方を走っていた選手たちは為す術もなく逃げ切りを許してしまった。

「どうだった??感想は??」
「すごい迫力、想像以上にすごい・・・新田さんの言ったシャァッ~っていうタイヤとバンクの摩擦音や風を切る音もはっきり聞こえたよ」
「競馬場でゴール前のドドドッって蹄が地を蹴る音もすごいけど、競輪も迫力あるだろう??」
「うん、あるある。車券を買えばもっと興奮しそうな気がする」

自信があると言った次のレースは、後方にいた選手と先頭で逃げ態勢の選手の逃げ争いとなって人気選手は足を消耗し、人気薄で中団に位置した選手が捲って穴車券となった。
新田は3連単で39000円近い払戻金を1000円分当てて39万円ほどの払戻金を受け取った。
「すごい、6000円が39万円近くになったの??・・・すごい、新田さんは名人。自信があるって言って当てるんだからすごいよ」
紗耶香が新田から視線を外したすきに、あちこちのポケットに入れてあった外れ車券を捨てた事に気付かない。
穴になると予想はしていたが6点で仕留める自信はなかったので6点ずつの車券を6枚買って、彼方此方のポケットに入れてあった。勿論どの車券がどこにあるかという事を覚えていた事は言うまでもない。

次のレースは買わずに見るだけにして、その次のレースを2点に絞って買う事にした。隠し車券は買わずに正直に2点買いする。
予想通りに捲った選手の力が違い、捲った選手とマーク選手の1・2着。3着は逃げた選手の後位にいた選手が位置有利に3着に流れ込んで払戻金は本命サイドの1800円。
紗耶香は新田が出してくれた20000円を言う通りの組み合わせで買って、18万円の払戻金を受け取った。
新田は5万円買って厚めに買った3万円が当たりで払戻金は54万円、最初のレースで買った事を隠していた車券を含めても80万余りのプラスとなり予定通りとニンマリする。
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