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勝負パンツ

「いらっしゃい・・・水曜日7時40分から50分までの10分間。今日で4回目だけど正確ですね」
「正確じゃなく性格、決めた事を決めた通りにすると安心できるから」
「ふ~ん、分かる気がします・・・トニックウォーターとライムを用意したからジントニックが出来ますが、どうしますか??」
「わざわざ用意してくれたんだ、余計な事を言ってゴメンネ」
「お客様の入りが悪いから、可能性のあるお客様の要望には応えないと・・・本業の不振を昼間の株式取引で補ってるようじゃしょうがないですね」
「住宅街って立地があまり良くないのかなぁ、美人ママの店に出入りすると何かと噂になりそうだし」
「あらっ、褒めてくれるの??何かサービスしなきゃ・・・エイのヒレ、焼きましょうか??」
「エイか、もらおうか。マヨネーズなしの醤油だけで」

「マヨネーズが嫌いなの??」
「今はね、昔は嫌いじゃなかったよ。それなりに理由はあるけど言わない、秘密」
友人に教えてもらったこの店に来るのは、この日で4度目。株式取引と言う共通の話題もあり、最初から旧知の仲のように話が弾み、週に一度、今日と同じ時刻に来るよと約束した。

途中で入ってきた二人組もビールを1本飲んだだけで帰り、再び二人だけになると一瞬とはいえ気まずい空気が漂う。
好意を感じてもそれはセックスを意識してではなく、酒を飲みながらの話し相手としてのモノである。
「何か飲みなよ、一人で飲むのはつまんないから」
「じゃぁ、私もジントニックを頂こうかな」
タンブラーに氷を入れてジンを注ぎ、冷やしたトニックウォーターで満たして軽くステアする。一連の手の動きは流れるように無駄がなく、女性らしい指が氷の発する音に似て涼やかに感じ、見ているだけで心地好い。
「珍しい??手元ばかり見てる」
「誤解されると困るけど、女性の指や膝小僧、後ろ姿は気になるよ」
「そうなの??・・・どう??私の後ろ姿は」
カウンターの中で反転して背中を見せ、肩越しに振り返る。
「うん、思った通り素晴らしいよ・・・背筋が伸びて生命力を感じる」
「生命力・・・褒めてもらったと思っても良いの??逞しくて野蛮って事じゃないよね??」
「謙遜が過ぎると他の女性が怒るよ」
「その褒め方って好き・・・ゴロウチャンに聞いたんだけど、気に入った女子はとりあえず誘うって。それは嘘なの??それとも私はタイプじゃないって事??」
「本当に好いなって思う人は誘えないもんだよ。身の程を知ってるから・・・断られると平気な顔をしても、心は傷つくからね」
「ふ~ん・・・奥さんは怖くないの??」
「私の幸せは貴男が幸せでいる事だって聞かされてる。それと、男には2種類いて、浮気を立小便に例えると我慢出来なきゃ迷惑を掛けない場所ならしても良いと考える男。何であれ、悪い事はしてはいけないと考える男。オレは前者だって・・・あちこち立小便して歩くわけじゃないし浮気って言葉は嫌い。自信家でもないけどね」
「浮気はしないんだ??」
「ママに言うのは変だけど、浮ついた気持ちで付き合うのは相手にも自分にも失礼、付き合う時は誰が相手でも本気だよ。誰が相手でも今を大切にって事」
「奥さんを愛してるんだ。そうでしょう??」
「くどい事を言ってもいい??」
「いいわよ、聞きたい」
「妻に何度か言った事があるんだけど、両親は尊敬しているし大切だと思ってる。両親の子供として生まれたのは幸せだと思ってるけど、両親はオレを何人かの候補の中から選んだわけじゃないし、オレもこの親の元に生まれたいと思ったわけじゃない。それはオレたちと息子との関係でも同じ、でも貴女を妻にしたいと思ったのは、オレの意思で神様が決めたわけじゃない。だから息子や両親よりも貴女が大切だってね」
「奥さんを愛してるのは本当なんだ。聞いた奥さんは喜んだでしょう・・・女性と付き合う時間は誰であれ、いつも本気なら私を幸せにする気がある??」
「うん、どうすれば良いの??」
「簡単だよ。埼玉県立近代美術館でキネティックアート展をやってるんだけど、行ってみたいなと思ってるんだ・・・」
「埼玉県立近代美術館に行かない??キネ何とか展をやってるから。外は暑いけど中は涼しいよ、きっと。芸術の夏、どう??」
「誘ってくれてありがとう・・・行きたい。いつ??」
「善は急げで明日はどう??」
「私は好いけど、いいの??」


「今日は楽しかったよ、ありがとう。キネティックアートって初めて知ったけど面白かった・・・もうすぐ着くけど、待ち合わせ場所まででいい??」
「私ンちに寄ってく??ジントニックや水割りは出さないけど、美味しいコーヒーを淹れるよ。泊まってくならジントニックを出すけど・・・ウフフッ」
「今日は遠慮しとく・・・待ち合わせ場所で良いね」
「いいよ・・・好い事、教えてあげようか??」
「なに、教えて欲しい」
「あのね、今日の私は何とかパンツを穿いてたんだよ。着替えも用意してるし、ほらっ・・・」
「うっ・・・その真っ赤なのが着替え用なの??今、穿いてるのは・・・いや、知りたくない、見せなくても良いよ」
「誤解しちゃ嫌だよ、いつもはこんな肉食女子じゃないからね・・・来週も、お店に来てくれる??嫌になった??」
「必ず行くよ・・・また店外デートしてくれる??」
「お客様とはデートしないのがマイルールなんだけど、いいよ。例外もありって事にする・・・でもね、その気になってる女を押し倒さないってのは失礼な事だよ、分かってる??」
「口ほどじゃないんだよ、オレは。ごめんね」
「私こそ、ごめんなさい。普段はこんなじゃないのにね、どうしちゃったんだろう、今日の私は・・・ウフフッ」
「今日の事は忘れる。デートした事は忘れないよ。もう一つの方はね・・・」
「えっ、もう一つの方??・・・ウフフッ、忘れて良いよ。変な女だって思われたら恥ずかしいから・・・」

「着いたよ、ここで良いね??」
「今日は本当に楽しかった、ありがとう。週一で好いから、本当に来てくれなきゃ嫌だよ。約束してくれる??」
「指切りしようか??」
「クククッ・・・指きりか、そう言う事が女の子は嬉しいんだよ。私は30を過ぎてるから女の子と言うには遅いけど・・・指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます、指切った」

振り返って手を振りながら路地に入るのを見送ったオレは、
「約束するよ。押し倒す時は催促されなくてもオレが・・・」
思わず口にしそうになった言葉を飲み込んだ事を思い出して苦笑いが浮かぶ。

待ち合わせ

待ち合わせ 1

約束の場所に着いた女は時刻を確かめ、男が来るはずの方角に視線を巡らせる。
九月になっても曇りや雨天が多く、すっきりした空模様は少なかったもののシルバーウィークは雨が降る事もなく、連休最後の今日も太陽が姿を見せて秘めた思いの後押しをしてくれているようだ。
連休は店を休みにして前半の二日間は実家へ帰り、両親の、いつまで水商売を続けるのだ、女の幸せは店を続ける以外にあるだろうと、いつもの小言を聞いてきた。
あの子に二人目の子供が生まれたらしい。あの子がついに結婚したよ。私を心配している事は分かるが、同居している兄夫婦の子供の面倒を見ていれば幸せなはずだろうに、欲深い両親だと反抗心も芽生えてしまう。

今日は気の合うお客様と店外デート、毎週水曜日の決まった時刻に来て、ジントニック二杯と水割り一杯を飲んで帰っていく。
噂では、気に入った女性を直ぐにデートに誘うという事だったが誘われる事もなく、プライドを傷つけられたと思ったわけでもないが最初のデートは自分からおねだりして、キネティックアート展に行った。
その日は、こんな日のためにと買い置いてあった勝負パンツを身に着けたものの、下着姿になる事もなくサヨナラを言った。
その後も毎週、水曜日の決まった時刻に現れ、ほぼ週一度の店外デートを続けているから私の事を嫌いでは無さそうだ。
今日は水曜日、店は休みにしたので彼の帰宅時刻だけを気にすればいい。

手をかざして陽射しを顔で受け、気持ち良いと心の中で呟いた時、
「お待たせ・・・日焼けしたいなら海へ行こうか??」
車の中の男は、眩しそうに目を細めて頬を緩め、いつもの笑顔を向けてくる。
「おはよう。わがまま言ってゴメンネ。毎回、私の行きたい場所ばかりで」
「好いさ、わがままを魅力的と思わせる女性が好い女、わがままに眉を顰めたくなるのは嫌な女。アユは勿論、前者・・・乗って」
バタンッ・・・女がシートベルトを着けると、
「夜のアユも惹かれるだけど、太陽の下で見ると魅力倍増。ドキッとしちゃったよ」
「本気で言ってる??」
後に続く、本当にそう思うなら押し倒しちゃえばいいのに、と言う言葉を口にせずに男の横顔をじっと見つめる。
視線を合わせる事を恐れるように、男は前を向いたままたわいのない事を話す。
一時間ほど経過し車中の話しが屈託なく弾み始めた頃、目的のギャラリーに到着する。


トーマス・マックナイトのシルクスクリーン作品を買ったアユは、上気した顔を笑みでクシャクシャにして車に戻る。
「ありがとう。予算よりも高価な作品を気に入っちゃって、不足分を借りる事になっちゃった・・・」
「誕生日とクリスマスプレゼントという事にしといてよ」
「えっ、いいの??クリスマスは3ヶ月先だし、誕生日まで半年もあるよ・・・好いの、本当に??」
「プレゼントさせてくれよ。それに、トーマス・マックナイトの名は初めて聞くわけでもないんだ。アメリカ生まれの彼は神戸の街が好きだったよね、確か。オレも神戸が好きで、高校生の頃はよく遊びに行った場所でもあるんだ。神戸を題材にした作品の在庫がなかったのが残念だったけどね」
「マックナイトを知ってるの??どうして??」
「どうしてかな??神戸が好きって、なんかで見たんだろうな・・・それより、どうする??食事にしようか??」
「う~ん、早く帰りたい。私の部屋に飾ればどんな風なのか早く確かめたいの、ダメ??」
「クククッ、大好きなモノを手に入れた子供みたいだな、いいよ、帰ろう」
男を部屋に誘う撒餌までは予定通り、釣り上げるまでは焦ることなく慎重にと自分に言い聞かせたアユは、秘かに深呼吸する。

食事もせずに帰りたいと言っても嫌な顔一つしない。
優しいと思うと同時に、もう少し強引にオレの言う事を聞けって言われてみたいと物足りなさを感じる。
このまま部屋に誘い、食事を終えて暑いからとシャワーを浴びたら押し倒してくれるだろうかと想像すると、自然と動悸が激しくなり頬が火照るのを止めることが出来ない。
「本当にお気に入りの絵を手に入れたようだね。興奮で顔が火照っているよ・・・」
絵を手に入れた事が興奮のすべてと思っているのかどうかは分からない。一緒に喜んでくれている姿を見ると、自然と身体が疼き股間がキュンとなる。
抱かれたい・・・今日こそ抱いて欲しい。
今日も相手にされず、もしも、部屋にも入ってくれないようなら、どうしよう??
二度と会いたくないと思う気持ちと、それでも離れたくないと思う気持ちが入り乱れて車窓の景色さえもが焦点が定まらなくなってしまう。

「あのさ、このままってのは時間も中途半端だから、途中で何か買ってアユの部屋で食べるって言うのはどうかな??ダメか??」
「えっ、うん、好いよ。残り物で良ければ昨日のビーフシチューがあるからパンを買うだけで食事できるよ。ご飯が良ければすぐに炊くし・・・御礼代わりに腕によりをかけて作るからね」
何度か誘っても決して入ろうとしなかった部屋に自分から行こうと言った。
不安が杞憂になった事で饒舌になったアユは、自分でも止めようのないまま次から次へと話しかけ、男は頬を緩めて相槌を打つ。

待ち合わせ

待ち合わせ 2

マンション近くのスーパーで赤ワインと冷えた白ワインのハーフボトルやチーズを買い、パン屋でバケットを買い終えた頃には、ぎこちなさも消えてアユがそっと差し出した手を男はしっかりと握る。
アユは隠しきれない喜びを浮かべて怒ったような男の横顔を面白そうに覗き込み、男も諦めたと言わんばかりに肩をすくめて握った手に力を込める。
「痛いっ・・・ウフフッ、もうすぐだよ。その角を曲がればすぐだからね」

部屋に入ったアユは絵を掛けることなくそのままにして、今日のために用意したビーフシチューを火に掛ける。
今更ながら女の一人暮らし用と思えない量の不自然さに顔が赤らんでしまう。
「待っててね、すぐに用意するから・・・」
男は、部屋に入って直ぐに全体を一瞥して、
「気のせいかもしれないけど好い匂いがする。アユの部屋らしくて好いね」
男を誘う積りで掃除、整頓した部屋に抜かりはない、思惑通りに進んでいると思うと自然と頬が緩む。
その後の男は、壁に掛けた水彩画の人物画に見入り、キッチンに立つアユの後ろ姿に視線を移す。
気になる男の視線は背中でも感じることが出来る。
調理している後姿を見られるのは、女として値踏みをされているようで落ち着かない。
「そんな処で立っていられると気になるから、座ってくれると嬉しいんだけど」
「この絵のモデルはアユ??」
「そう、自画像。誰に書いてもらったもんじゃなく、私が描いたんだよ」
「ふ~ん・・・実物も魅力的だけど、キャンバスのアユも中々のモノだね・・・手伝おうか。切ることくらいなら出来るよ」
「ウフフッ・・・描く時に現実を見ながらほんの少しだけ理想に近づけたから。良く描けてるでしょう。料理が得意なの??」
「得意ってほどじゃないけど、好きだよ。出来上がりをイメージして食材を揃える。あるいは、食材からメニューをイメージする。調理、後片付けまで段取りよくする。すごく、クリエーティブな作業だと思うよ」
「料理の科学的考察ってヤツ??」
「ごめん、余計な事を言っちゃったね・・・少々、理屈っぽいのが悪いとこって分ってるんだけどね」
「そんな風に言われたら、私こそゴメンナサイ・・・お願いをしても良い??
食器を用意してくれる??」

ビーフシチューとシーフードサラダ、パンで食事を済ませた二人は、マックナイトの絵を開いて壁に立てかける。
ソファに寄りかかるようにして床に座り、男の好みで良く冷えた白ワインで乾杯する。
ほんの少し動いただけでアユの右足や右肩は男に触れ、男がアユの横顔を見ようと身体を捩じると左腿が触れる。
ほんの少し動くだけで触れる身体も、意識すると隙間を埋めることが出来ない。

肩を抱いて欲しい、そして、キスされたい。
彼の腕の中で安心しきった子犬のように身体を休ませたい。

アユは生ハムでアボカドを巻いて口に運び、男はモッツァレラチーズを巻いて塩を振りかける。
冷えてキリットした白ワインが生ハムのスモーク臭に良く合う。
「モッツァレラチーズ巻は美味しい??」
「うん、美味いよ。食べてみる??」
男は、手の中に半分残る生ハムのモッツァレラチーズ巻をアユの口に運ぶ。
「美味しい・・・アボカド巻も食べてみて」
アユも半分残るアボカド巻を男の口に運び、美味しそうに食べるのを嬉しそうに見守る。
食べ終えた男はアユの手を取り、
「レモン汁が付いてるよ」
アボカドに振りかけたレモン汁が指についているのを見つけた男は、指を口に含みレモン汁を舐め取る。
指を温かい口に含まれて舌を絡まされると全身の力が抜けてアソコが熱くなり、見つめる男の表情がぼやけてくる。

焦点の合わなくなった視線を男に向けていると、目の前が暗くなって唇を重ねられる。
二度三度とついばむように唇を合わせた男は、可愛いよと一言残して離れていき、グラスに残るワインを口にする。
「ハァハァッ・・・急に、うぅうん、いぃの・・・驚いたから喉と唇が渇いちゃった」
無言のまま口元を緩めた男はグラスに残るワインを口に含み、再び唇を合わせて流し込む。
「ングッ、ゴクッ・・・美味しい」
流し込まれたワインを飲み干したアユは両手を男の背中に回して、
「すごいの、ドキドキしてる。心臓がバクバクしてるのが分る??」
「あぁ、オレもだよ」
「うそ、あなたは余裕綽々。一度のキスで心臓が破裂しそうなほどドキドキするし、アソコがビチョビチョになるほど焦らしたんだよ。悪い男・・・もう一度、キスして。ちゃんとしたのを・・・」

髪に手櫛を入れて整えてくれ、指先で頬をなぞる間も視線を外すことなく、見つめられる羞恥で火照りを感じるほど熱くなると、やっと唇を重ねられる。
互いの唇をなぞり、息を荒げて舌を絡め、唾液を交換する濃厚なキスをする。
「可愛い、アユに惚れちゃいそうだよ」
「私は一目見た時から好きになった。一目惚れ・・・お風呂に湯を入れてくるね、待ってて」

待ち合わせ

待ち合わせ 3

ウフフッ・・・男に背中を見せた途端にこみ上げる笑みを抑えることが出来ない。
気付かれたらどうしようと思わないでもないものの、初めてのデートの際に勝負パンツを穿いてきたと告白したり、デートの度にわざとらしく身体を摺り寄せたりしてきた手前、今更、気取ってもしょうがないと思う。
店でお客様として相手するときは、私もプロ。他のお客様に気取られたり、不快な思いをさせたりする様な事はなかったはず。
今は、恋する女でいる事に恋しよう。

私は31歳。
何人かの男を愛し、愛されてきた。
妻子を持つ男を格好いいなと思う事はあっても、恋の対象にした事はない。
一度火が点いた気持ちは静かに燃え盛り、男に妻子がいると分かっても消えることがない。
囲炉裏で絶えることのないほだ火のように静かに燃え続け、囲炉裏を囲む人たちがその温かさに気付き、薪が追加されるのを待っているのと同じような状態でいる。
男がキスをしてくれた。それは新しい薪をくべてくれたと同じ意味。
男に恋する炎が勢いを増し、恋する男といるから燃え盛るのか、燃え盛るから恋する気持ちが一段と強くなるのか、もはやアユ自身にも分からない。

男は飲み干したグラスにワインを注ぎ、指が感じるモッツァレラチーズの弾力を楽しんでいるとバスタオルなどを用意し終えたアユがソファに座る。
ソファに寄りかかったままの男の身体を両足で挟むようにして、髪をくしゃくしゃにする。
「なんだ、どうした??」
「ウフフッ、どうしてかな??自分でも分からない・・・これまで、何度も誘ったのを気付いてたでしょう??分からなかったとは言わせないよ・・・これは、今日まで焦らせた罰」
「自信家じゃないからね、オレは。アユのような好い女に誘われると何かの罠じゃないかと警戒するんだよ」
「クククッ、うそ。下手な嘘だね・・・でも、許してあげる。今日は絶対に逃がさないからね、覚悟してよ。今まで焦らされた分も可愛がってもらっちゃうんだから・・・」
「アユのムッチリ腿で身体を挟まれると落ち着くな」
「フフフッ、ムッチリが好きなの??・・・良かった」

決して大きくはないバスタブに座って目を閉じていると、ガサゴソとアユの動く気配がする。
股間に手を伸ばすと、半立ちよりもやや元気なムスコに触れる。
元気すぎるのは焦っているようで年齢を考えるとみっともないし、平静を保っていてはアユに対して申し訳ない。丁度いい興奮状態だと、頬を緩める。
「一緒に入っても良いでしょう??・・・恥ずかしいから目を閉じて」
シャッ~・・・シャワーの湯がアユの肌を濡らす音と、ガサゴソ動く気配がする

シャワーの音が止み、まだ目を開けちゃダメの声と共にアユが男の腿を跨ぎ、胸に背中を預けて寄りかかる。
バシャ、シャァッ~・・・ガラガラッ、シュッ、シャァ~・・・バスタブの湯が溢れ、洗面器やバスチェアーがぶつかる音がする。
「目を開けてもいいか??」
「えっ、本当にまだ瞑ってるの??・・・いいよ、開けても」

「アンッ、いやっ・・・ベッドで・・・ウフフッ、大きくなってる。私を食べちゃいたいと思ってる??」
「あぁ、食べちゃいたいよ。この可愛い耳に好きだよって囁きながら、首筋にこんな風に舌を這わせてオッパイをモミモミする」
「アァァッ~・・・たまんない、こんな風にして欲しかったの・・・それより、私のお尻を熱い棒がつついてる・・・アウッ、そんな処を・・・グジュグジュになってるでしょう??早く、ベッドへ」
アユの股間に伸ばした男の指は、湯の中だと言うのに滑りを帯びた熱い蜜の滴りを感じる。

ボディシャンプーを使うのももどかし気に汗を流し、アユの視線は男の股間でそそり立つペニスを見つめ、男はアユの肌を滑り落ちる水滴を見つめる。
蓮の葉に落ちた水が水玉となって中心に転がるように、アユの肌はシャワーを弾いてきれいに流れ落ちていく。
平静を保つことなど意識せずに息を荒げて身体を拭き終わった男は、アユの身体を抱き上げてバスルームを出る。
「もぉぅ、まだ濡れてる。拭き終わってないのに・・・ウフフッ、焦らなくても逃げないのに」

ベッドに運び、投げ出すように寝かせたアユは羞恥心を露わにして恥じらいを見せる。
股間と乳房を手で覆い、遠くを見るような視線を男に向けて、仰向けから俯せになる。
染み一つない白い背中から尻の割れ目、それに続く腿の裏側は適度な丸みを帯びたムッチリ感を漂わせ、見つめる男は唾を飲む。
シーツを咥えて、ゴロリと仰向けになると股間も乳房も見事に姿を隠している。
「見たい??私のすべてを見たいの??・・・見せてあげない。見たければ、あなたの手でシーツを剥がして」

12月23日

12月23日 ―1

「5分遅刻だよ。遅れるのは珍しいね」
「ごめん、ちょっと手間取っちゃった・・・これはクリスマスプレゼント」
「えっ、なに、なに??風船の中に風船が入ってる・・・ウン??きれいにラッピングされたモノも入ってる。ねぇ、なに、どうしたの??どうやって取り出すの??ねぇ、教えて、早く」
「ウフフッ、可愛いなアユは・・・そんなに色々聞かれても答えられないよ。好いかい。バルーンラッピングは知ってるね??・・・取り出し方は、穴をあけて破裂させるしか方法はないと思うよ・・・何日か置いて、何が入っているか想像する事を楽しんでくれると嬉しいな」
「この間、絵を買ってもらった時にクリスマスと誕生日プレゼントを兼ねてだと言わなかった??」
「そんな事を言ったっけ、忘れちゃったよ。高価なモノじゃないから、期待されると困るけどね」
「そんな事・・・ありがとう。ここに置いて楽しむことにする。可愛いし、きれい・・・ウフフッ」
男に近付いたアユは頬に唇を合わせてチュッと音を立て、上目遣いに見上げてもの言いたげに目を閉じる。
「悪いけど、手を洗わせてくれる・・・その前に、ワインクーラーを用意してくれる??」
「うん、分かった。氷を用意すればいいんだね??・・・手は私に洗わせて、いいでしょう??」
軽く唇を合わせただけの男は焦らそうとする気はなく、只々手を洗いたいと洗面所に視線を向ける。

洗面所でハンドソープを手に取ったアユは十分に泡立たせ、男の手を包み込むようにして洗い終えると、自分だけ泡を洗い落としてその場にしゃがみ込む。
クククッ・・・女の意図を感じ取った男は嬉しそうに笑みを漏らして泡だらけの手をタオルで拭う。
ジップフライを上下になぞり、思わせぶりに唇に舌を這わせて滑りを与えたアユはジッパーを下げて指を侵入させ、冷たい指をペニスに這わせてクククッと笑みを漏らす。
「どうした??大きくなってないから不満か??」
「うぅうん、そうじゃないの。着いて早々にこんな事をするなんて・・・あなたに会うまでは考えもしなかったなって。私だって年相応に経験があるし、男もセックスも嫌いじゃないけど・・・ウフフッ、こんな事をする女とは自分でも思っていなかった」
「理由は分からないけど嬉しいね。男は付き合う女で変わるし、女も男で変わるだろうからね」
「好きな男がいると笑顔が増えるし、好いセックスをすれば肌の艶も良くなるし気持ちもポジティブになる。他の男の目にも好い女に見えるらしいね・・・クククッ」
「うん??店で誘う男が増えたって事か??」
「どうして??店に限らないかもよ。私だってあちこち出かける事があるんだよ」
「困ったな。出掛ける事を禁止するには食事を届けなきゃいけないし、店も毎日オープンラストで見張らなきゃいけないし・・・ウ~ン」
「心配なんかしてないくせに・・・先に惚れたって言った私の負け。ウフフッ、もしも、もしもだよ、ほんの少しでも私の気持ちが他の男に移ると困るって心配してくれるなら、いっぱい可愛がって離れられなくしてくれる・・・好きな男の想い出で身体も心も満たされちゃうと離れなくなっちゃうもんだよ、女って・・・多分ね」

アユの脇に手を入れて立ち上がらせ、腰の辺りを擦りながら唇を合わせて瞳を覗き込む。
「可愛いよ・・・悪いけど、お腹が空いているんだ。好い匂いもしてるし」
「花より団子、色気より食い気か、しょうがないね。チキンをオーブンに入れてるの・・・準備するのを手伝ってくれる??」
広くはないキッチンに立ち、身体をわざとのように擦り付け合いながら食事の用意をする。

タンドリーチキンをメインとしてテーブルに着き、適温に冷えたスパークリングワインを開けて乾杯をする。
「23日で少し早いけどクリスマスに乾杯・・・美味しい、口の中がスッキリ爽やかになる。クリスマスをお祝いして元日は神社で一年の無事を敬虔にお祈りする。ご先祖を敬う時はお寺にお参りするし、日本人って融通無碍で好いね」
「本当だね。楽しい事はグダグダ理屈を言わない方が幸せだよ・・・起きて半畳、寝て一畳、美味いワインとアユが居れば良いってね。もう一度、乾杯」
「去年のクリスマスは店でお客様と乾杯した。今年はあなたと二人っきりで・・・奥さんがいる人と二人だけの乾杯って想像したこともなかった」
「それは忘れてくれる??言葉にされると気になってしょうがないよ」
「そうは言っても、ほんの数か月前までは不倫って忌み嫌う言葉だったんだから。何も人のモノを欲しがらなくっても好い男や女は居るだろうにって思ってたのに・・・あなたの好きって言う時は、いつも本気って言う言葉を聞いて吹っ切れたの、迷惑だった??」
「美味い。スパイスが効いているし柔らかく焼き上がっているよ」
「クククッ、上手く誤魔化された・・・タンドリーチキンは自信があるんだ。気に入ってくれると思ってた」

食事を終えた二人はミルクティを飲みながら画集を開いて穏やかに過ぎゆく時間を過ごす。
付き合い始めて早々の時期はセックスを覚えたばかりの頃のように身体を求める事が多かったものの、最近は手を伸ばせば届く距離にいるというだけで気持ちが落ち着き満たされた思いになる。
絵を描くのが苦手な男も見る事は嫌いではなく頁を繰りながら説明するアユの言葉に耳を傾ける。
懐かしさを憶える農村風景が並ぶ森崎伯霊画集を開いた男は、誰に聞かせる風でもなく静かに呟く。
「こんな草紅葉に埋もれてアユを抱きたいな」
エッ、うそ・・・アユは驚きの声を漏らし、
「そんな趣味があるの??畑の中で私を素っ裸にして抱きたいの??本当なの??」
「冗談だよ、アユを抱くのはベッドが一番。なんだよ、疑うようなその顔は、嘘じゃないって・・・信じてくれよ」
「じゃぁ証明してくれる??・・・その前にお風呂に入ろうよ。ケーキも用意したけど後で良いでしょう??」

男を迎える前に用意してあったバスルームは十分に温まり、アユの心遣いを感じた男は自然と頬が緩む。
「丁度いいと思うんだけど調節してね。タオルとバスローブをここに置いたからね」
「気持ち良いよ。湯加減も好いしバスルームも温まって快適だよ。早くおいでよ」
声を掛けた男は全身をリラックスさせてバスタブに背中を預けて静かに目を閉じる。